『はっちこどもクリニックの目的地』
「人生とは旅である」
サッカー元日本代表の中田英寿さんが引退するときに語った言葉です。
「クリニック運営も、一つの旅である」
いま私は、そんな風に思っています。なんとなく船旅のイメージです。
来るべき出港にむけて、“はっち号”の準備を進めています。
船長として、船をデザインし、備品を整えて、人を集めようとしています。
でも、どんな準備より大切なものは、『目的地』を決めることです。
旅の目的が、商売なのか、友人に会いに行くことなのか、新大陸を発見することなのか・・・。決まらなければ、準備を整えることはできませんし、船員だって戸惑うでしょう。なにより自身が岐路に立たされた時、正しい決断をすることができません。
クリニックがどこへ向かっているのか、どんな思いで診療しているのか、はっきりしていたほうが、患者さんにとっても安心だろうと思います。
それで開業を思い立ってから長い間、『目的地』を考え続けていました。
ずっと頭にあったのは、自身の子育てにおける、予想を超えた困難さでした。自分が想像していたより、世の中の親御さんたちはずっとずっと、子育てに苦労していると痛感させられました。そんな思いがありましたので、「子育てをする親御さんたちを全力で応援する」のを最初に『目的地』として考えていました。
そんな折、一つのニュースを耳にしました。
「こども庁」が「こども家庭庁」へと名称変更する、というものです。
実際のところ、中身がよければ、名称はどちらでもよいとは思うのですが、
私の受けた印象では、
「こども庁」が直接、こども中心の支援を行う印象があるのに対して、
「こども家庭庁」は家庭に一定の役割を期待する、責任を負わせる印象があります。
思い出すのは15年以上の診療経験のなかで出会った、様々な事情を抱えたこどもたち、親御さんたちです。
<自分が親だったらこの子を心から愛せるだろうか。>
<このご両親にお子さんを育てる余力はあるのだろうか。>
<自宅ではどれだけ大変な生活をしているのだろう、想像するのも辛い。>
<この子の親になって、親御さんはどれだけの夢を失ったのだろう。>
失礼な思いの数々だとは思いますが、こう思ったことは一度や二度ではありません。
適切な支援によって、多くの家庭・多くの子育ては確かになんとかなります。
でも、家庭を支援しその頑張りに期待するだけでは、救いきれないお子さん、親御さんが出てくる。そしてそういうことは、誰の責任でもなく、また、誰の身にも、ある確率で起こりうる。いままでの経験から学びました。
ですから「こども庁」はやっぱり「こども庁」のままであってほしかったし、
当院の『目的地』は、“ご家族の応援”より、一歩先にないといけない、と思いました。
『こどもをみんなで育てる社会』
今、私に見えている『目的地』です。
日々の診療に反映させるなら、
“あらゆる患者さんを自分のこどもだと思って診る“ということだと思います。
これからの数十年、日本の人口は減り続け、高齢化が進みます。
しかし、日本がなくなってしまうことはないと思いますし、
人口構成も少しずつ変化していきます。出生率は社会情勢によって、意外と変化します。
私が引退を考えるころ、少しでも前向きにこどもを産み、育てることのできる世の中になっていることを目指して、“はっち号”を準備し、出港させたいと思います。
和田 芳雅